はじめに
「営業職」「事務職」「技術職」。かつての就職活動では、職種といえばこれらのような大枠の分類が一般的でした。しかし、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速やSaaS(Software as a Service)ビジネスの台頭により、新卒採用市場には**聞き慣れない「カタカナ職種」**が急増しています。
「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」「プロダクトマネージャー」……求人票でこれらの言葉を見かけて、「具体的に何をする仕事なのかイメージが湧かない」「自分に合っているのかわからない」と悩む学生は少なくありません。
本記事では、現代のビジネスシーンで重要性を増しているこれらの新しい職種に焦点を当て、「仕事内容の解像度」を高めるための完全ガイドをお届けします。単なる用語解説にとどまらず、その職種がビジネス全体の中でどのような価値を生み出しているのか、そして新卒からそのキャリアを歩むことでどのような「市場価値」が得られるのかを深掘りしていきます。
曖昧なイメージだけで職種を選び、入社後のミスマッチに苦しまないために。これからの時代を生き抜くための「職種選びの羅針盤」として活用してください。
目次
- なぜ今、職種の細分化が進んでいるのか?
- 【The Model型】営業プロセスの分業化と新職種
- 【プロダクト・マーケ系】市場価値を高める企画職
- 【開発・クリエイティブ系】技術とデザインの融合
- 【コーポレート系】守りから攻めへ変わるバックオフィス
- 新卒が「職種」を選ぶ際の戦略的フレームワーク
- まとめ:職種名に惑わされず「機能」で選ぼう
1. なぜ今、職種の細分化が進んでいるのか?
具体的な職種解説に入る前に、なぜこれほどまでに職種名が多様化しているのか、その背景を理解しておきましょう。背景を知ることは、企業がその職種に何を求めているかを理解する近道です。
1-1. 「総合職」採用からの脱却とジョブ型雇用
日本の伝統的な新卒採用は「総合職」として一括採用し、入社後の研修やローテーションを経て配属先を決める「メンバーシップ型」が主流でした。しかし、専門性が求められる現代において、**「最初から特定の職務(ジョブ)に対して人を採用する」**という「ジョブ型雇用」の考え方が広まりつつあります。
特にIT・Web業界やスタートアップ、外資系企業では、新卒であっても「あなたが何のプロフェッショナルになりたいか」を早期に問われます。そのため、求人票の段階で具体的な職種名が明記されるケースが増えているのです。
1-2. ビジネスモデルの変化(サブスクリプションの台頭)
かつてのビジネスは「商品を売って終わり」の売り切り型が中心でした。しかし現在は、月額料金を支払ってサービスを利用し続けてもらう「サブスクリプション型(SaaS等)」が主流になりつつあります。
このモデルでは、「売ること」以上に**「使い続けてもらうこと(解約を防ぐこと)」**が重要になります。その結果、従来の「営業」という一括りの役割では対応しきれなくなり、「カスタマーサクセス」のような顧客維持・成功支援に特化した職種が生まれました。
1-3. データドリブンな意思決定の重要性
勘や経験に頼る経営から、データを基にした意思決定(データドリブン)への移行も職種細分化の要因です。「マーケティング」の中でも、Web解析に特化した役割や、データを分析してプロダクト改善につなげる役割など、専門スキルごとにポジションが切り出されるようになりました。
2. 【The Model型】営業プロセスの分業化と新職種
現在、多くの成長企業(特にBtoB)で導入されているのが、セールスフォース・ドットコム社が提唱した「The Model(ザ・モデル)」と呼ばれる営業体制です。これは営業プロセスを分業化し、効率と専門性を最大化する仕組みです。ここで登場する3つの職種は、新卒採用でも非常に需要が高まっています。
2-1. インサイドセールス(IS)
「見込み客を育て、商談を生み出す司令塔」
- 役割: マーケティング部門が獲得した見込み客(リード)に対して、電話やメール、オンラインツールを用いてコンタクトを取り、ニーズをヒアリングします。すぐに受注につながらない場合でも、継続的な情報提供(ナーチャリング)を行い、購買意欲が高まったタイミングでフィールドセールスに商談を引き継ぎます。
- 従来のテレアポとの違い: 単にリストの上から順に電話をかけてアポイントを強引に取る「テレアポ」とは異なります。ISは、顧客の課題を分析し、適切なタイミングで適切な情報を提供することで信頼関係を構築する「知的労働」の側面が強いです。
- 新卒でのメリット: 多くの顧客と接点を持てるため、**「ヒアリング能力」「課題抽出能力」**が圧倒的なスピードで身につきます。また、マーケティングと営業の中間に位置するため、両方の視点を学ぶことができ、将来的にマーケターやフィールドセールス、事業開発へとキャリアを広げやすいのが特徴です。
2-2. フィールドセールス(FS)
「顧客の課題を解決し、契約を勝ち取るクローザー」
- 役割: インサイドセールスから引き継がれた確度の高い見込み客に対し、具体的な提案を行い、契約(受注)を獲得する役割です。近年はオンライン商談が主流になりつつありますが、最終的なクロージングを担う責任あるポジションです。
- 求められるスキル: 提案力、交渉力、そして顧客の経営課題まで踏み込んで解決策を提示するコンサルティング能力が求められます。
- 新卒でのメリット: 「売上を作る」というビジネスの根幹を担うため、成果が数字として明確に見える点がやりがいです。トップセールスとしての実績は、どの業界に行っても通用する最強のポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)となります。
2-3. カスタマーサクセス(CS)
「顧客を成功に導き、LTV(生涯顧客価値)を最大化する伴走者」
- 役割: 契約後の顧客に対して、サービスの導入支援(オンボーディング)や活用促進を行い、顧客がそのサービスを使って「成功(目標達成)」できるよう支援します。結果として、契約更新やアップセル(上位プランへの切り替え)につなげます。
- カスタマーサポートとの違い: 「サポート」が顧客からの問い合わせ(クレームや質問)に対応する受動的な役割であるのに対し、「サクセス」は顧客データを見て先回りして提案を行う能動的な役割です。「そろそろ使い方がわからず離脱しそうだ」と察知して連絡を入れる、などが該当します。
- 新卒でのメリット: 顧客と長く深い付き合いになるため、**「顧客視点」や「コンサルティング能力」**が養われます。SaaSビジネスの要であり、現在市場価値が急上昇している職種の一つです。
3. 【プロダクト・マーケ系】市場価値を高める企画職
「企画職」は学生に大人気ですが、その中身も変化しています。特にIT業界では以下の職種が注目されています。
3-1. Webマーケター / デジタルマーケター
- 役割: SEO(検索エンジン最適化)、Web広告運用、SNS運用、コンテンツ制作などを通じて、自社サイトへの集客やリード獲得を行います。
- 新卒のリアル: 華やかなイメージがありますが、実際は**「数字との戦い」**です。クリック率、コンバージョン率(CVR)、獲得単価(CPA)などの指標を毎日モニタリングし、地道な改善(ABテストなど)を繰り返す泥臭さがあります。
- キャリアパス: 専門性を極めてCMO(最高マーケティング責任者)を目指す道や、データアナリストへ転身する道があります。
3-2. プロダクトマネージャー(PdM)
「プロダクトの『なぜ』『何を』を決めるミニCEO」
- 役割: 担当するサービスや製品の責任者として、ユーザーの課題を発見し、どのような機能を実装するか、どのようなロードマップで開発するかを決定します。エンジニア、デザイナー、ビジネスサイド(営業等)の間に立ち、プロジェクトを推進します。
- 新卒での難易度: 非常に高度なバランス感覚とリーダーシップが求められるため、新卒でいきなりPdMを任せる企業は多くありません(一部のメガベンチャーやスタートアップを除く)。まずはエンジニアやディレクター、CSとして経験を積んでからPdMになるケースが一般的です。
- 目指すなら: 「なぜこの機能が必要なのか」を論理的に説明できる思考力と、周囲を巻き込む人間力が必須です。
3-3. プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)
- 役割: PdMが「製品を作る」責任者なら、PMMは**「製品を売る仕組みを作る」**責任者です。市場調査、競合分析、プライシング(価格設定)、販売戦略の立案、営業資料の作成などを担います。
- 注目度: 日本ではまだ馴染みが薄いですが、外資系や先端IT企業では非常に重要なポジションです。「良いものを作ったのに売れない」を防ぐためのキーマンです。
4. 【開発・クリエイティブ系】技術とデザインの融合
理系学生だけでなく、文系からエンジニアを目指すケースも増えています。ここでは開発・制作に関わる職種を紹介します。
4-1. エンジニア(Web / アプリ / インフラ)
- 役割: プログラミング言語を用いてシステムやアプリを開発します。
- 最近の傾向: 単にコードを書くだけでなく、**「ビジネス要件を理解して技術選定ができるエンジニア」**の価値が高まっています。文系未経験採用も活発ですが、入社後の学習量は膨大です。
- 職種例:
- フロントエンド: ユーザーが見る画面部分を作る。
- バックエンド(サーバーサイド): データベースや処理ロジックを作る。
- SRE(Site Reliability Engineering): サイトやサービスの信頼性・安定性を守る。
4-2. UI/UXデザイナー
「見た目の美しさだけでなく、体験を設計する」
- 役割:
- UI(User Interface): ボタンの配置、色、フォントなど、使いやすい画面を設計する。
- UX(User Experience): ユーザーがサービスを通じて得られる「体験」全体(使い心地、楽しさ、悩み解決のプロセス)を設計する。
- 新卒へのアドバイス: 美術大学出身でなくても、論理的な思考力があればUXデザインの領域で活躍できるチャンスはあります。ユーザー心理を深く洞察する力が求められます。
5. 【コーポレート系】守りから攻めへ変わるバックオフィス
「事務」という言葉で片付けられがちなバックオフィスですが、企業の成長を支える「攻め」の役割へと進化しています。
5-1. HRBP(Human Resource Business Partner)
- 役割: 従来の人事(給与計算や採用実務)とは異なり、**「経営戦略を実現するためのパートナー」**として、事業部門に入り込んで組織課題を解決します。例えば、特定の事業部が目標達成するために必要な人材要件を定義したり、組織風土改革を行ったりします。
- 新卒の可能性: 最初からHRBPと名乗ることは稀ですが、総合職として人事部に配属され、将来的には経営視点を持った人事プロフェッショナルを目指すルートがあります。
5-2. 経営企画 / 事業企画
- 役割: 中期経営計画の策定、予実管理(予算と実績の管理)、新規事業の立案、M&Aの検討など、会社の舵取りをサポートします。
- 求められる力: 高度な計数感覚、論理的思考力、そして社内の様々な部署を調整する政治力も必要です。コンサルティングファーム出身者が転職してくることも多いハイレベルな職種です。
6. 新卒が「職種」を選ぶ際の戦略的フレームワーク
これだけ多様な職種がある中で、自分に最適な一つをどう選べばよいのでしょうか?以下の3つの軸で考えてみましょう。
6-1. 「Generalist(総合力)」vs「Specialist(専門力)」
- Generalist志向:
- 幅広い業務を経験し、将来的にはマネジメントや経営に関わりたい。
- 向いている職種:総合商社の営業、大手企業の総合職、PM(プロジェクトマネージャー)候補
- Specialist志向:
- 特定のスキル(プログラミング、デザイン、会計、法務など)を極め、その腕一本で生きていきたい。
- 向いている職種:エンジニア、デザイナー、専門コンサルタント、経理財務
6-2. 「Client Facing(対顧客)」vs「Internal Support(対社内)」
- Client Facing:
- 社外の人と接するのが好き、顧客の反応を直接感じたい。
- 向いている職種:FS、CS、IS、コンサルタント
- Internal Support:
- 社内の環境を整えたり、製品に向き合って黙々と作業するのが好き。
- 向いている職種:エンジニア、社内SE、経理、法務、商品企画
6-3. 「0→1(創出)」vs「1→10(拡大)」vs「10→10(守り)」
- 0→1(ゼロイチ): ないものを作るのが好き。カオスな環境を楽しめる。
- 向いている職種:新規事業開発、創業期スタートアップの全職種
- 1→10(拡大): あるものを改善して大きくするのが好き。仕組み化が得意。
- 向いている職種:CS、マーケター、IS、グロースハッカー
- 10→10(守り): 安定稼働させるのが好き。リスク管理が得意。
- 向いている職種:インフラエンジニア、法務、品質管理
【コラム】職種名よりも「誰と、何をするか」
職種名は会社によって定義が異なります。A社の「マーケティング」はチラシ配りかもしれず、B社の「マーケティング」は高度なデータ解析かもしれません。職種名というラベルだけで判断せず、面接やOB訪問で「具体的な1日の業務内容」や「ミッション(目標)」を確認することが、ミスマッチを防ぐ最大の防御策です。
7. まとめ:職種名に惑わされず「機能」で選ぼう
本記事では、現代の就活市場で注目される様々な職種について解説してきました。重要なポイントを振り返ります。
- 職種の細分化が進んでいる: 「営業」ではなく「IS」「FS」「CS」など、役割(機能)ごとの専門職化がトレンド。
- SaaS/DX時代の花形職種: カスタマーサクセスやインサイドセールスは、市場価値が高く、キャリアの潰しが効きやすい。
- 企画職のリアリティ: PdMやマーケターは華やかだが、泥臭い数値管理や調整業務が本質。
- 自分軸での選択: 「専門性」「対人・対物」「フェーズ」の3軸で自己分析を行い、適性を見極める。
新卒での配属は「キャリアの入り口」に過ぎませんが、どの入り口を選ぶかでその後の景色は大きく変わります。流行りのカタカナ職種に飛びつくのでもなく、古いイメージのまま職種を毛嫌いするのでもなく、**「その職種はビジネスチェーンの中でどんな価値を生み出しているのか?」**という本質的な問いを持って、企業選びを進めてください。
Media Stationでは、他にも業界研究や面接対策に関する深掘り記事を多数公開しています。ぜひ併せてご覧いただき、納得のいくキャリア選択を実現してください。